慢性的に睡眠が十分とれなくなり、そのため、病院やクリニックを受診した場合、ふつう、睡眠導入剤という種類のクスリが処方されます。
それを服用すると、それまで、なかなか眠れなかった人が、すぐに、ぐっすり眠れるようになり、それで、不眠症の人たちは、それまでの苦しみから解放されます。その点では、不眠で苦しむ人たちには、睡眠導入剤は、実に便利で、役に立つものなのです。
それで「万事解決」となればいいのですが、残念ながら、そうはなりません。というのも、睡眠導入剤には、精神的依存になるリスクがあるからです。
一言で言えば、「飲めば安心」だか、「飲まないと不安」なので、つい飲むのが「習慣」となってしまうといったものです。不安というのは、当然、眠れなくなる不安です。
ただ、麻薬とは異なり、睡眠導入剤には、通常の服用法であれば、薬を止めた時の禁断症状とか、幻覚などの重い精神症状が出たりすることはありません。もちろん、生活が破綻するようなこともありません。ただ、止めるのが、なかなか難しくなるといった問題だけです。
前の記事で、不眠症の原因は不眠への不安や恐怖である、と述べました。そのような人たちが睡眠導入薬を飲んでよく眠れた場合、当然、「飲まなかったら眠れないのでは」といった不安が起こるものと考えられます。その不安のため、服用は習慣的になりがちです。
さらに、睡眠導入剤には、リバウンド現象というものがあって、しばらく服用を続けていた薬をやめた後の数日間は、やめた反動で不眠が起こります。それが、眠れないことへの不安を引き起こす訳で、そのため、薬をやめることが難しくなります。
「ことばのクスリ-薬に代わるこころのケア-」:志村宗生;東京図書出版、2023

