不眠に対する薬の使い方

メンタル・ヘルス

不眠への薬は、睡眠薬だけではない !

 今回は、やや専門的なことを書いてみます。興味のある方は、挑戦してみてください。

 「なぜ眠れないの」という記事の中で、不眠を引き起こすのは、「脳の興奮」であると述べました。ということは、不眠に対して、催眠作用のある睡眠導入剤を使わなくても、脳の興奮さえ収まれば、不眠も解消する訳です。

 また、脳の興奮を引き起こすものには、次のような場合があるとも書きました。

 a.仕事や用事で忙しいなど、それらの活動の質や量が過剰である場合

 b.心配事や悩み事がある場合

 c.災害の後など、ストレス状況が続き、神経が緊張状態(交感神経優位)のままになっている場合

 d.精神障害によって脳が興奮が引き起こされた場合

脳の興奮を引きおこしている原因、そのものを解消する

  まずは、不眠を起こす、おおもとの原因を解消するように作用する薬を使うということです。図の中では、緑の矢印日中の食後)に服用することで、不眠に対処するようなやり方です。

 心配事や悩み事が脳の興奮を引き起こしている場合には、それら「余計なこと」を考えないような薬を使います。ごく軽度で少量の抗精神病薬や、SSRIと呼ばれる抗うつ薬がそれにあたります。どちらを使うかは、その人の「性格」によります。(その「性格」については、下記の「ことばのクスリ」の第3章、「新しい性格類型による精神療法」で詳しく述べられています。)

 精神的なストレスで神経が緊張状態にある時は、それを和らげる「抗不安薬」という種類の薬を使います。

 精神病などの精神障害による不眠の場合には、興奮を抑えるために、本格的な抗精神病薬や抗そう薬が使われます。

脳の興奮を下げる

 夕方から夜に向かって、通常は、副交感神経の働きで脳の興奮はさがっていくものです。でも、日中の脳の活動が過剰な場合には、睡眠が来るのに十分な程度に興奮が下がらないことがあります。そのような場合、青の矢印(就寝1~2時間前)の時刻に鎮静効果のある少量の抗精神病薬か、不安緊張を抑える抗不安薬か、その両者を使って、興奮を下げるようにします。

薬の鎮静効果で睡眠に誘導する

 いずれの方法でも、不眠が解消されない場合、赤の矢印(就寝30分前)の時刻に、催眠作用のある睡眠導入薬を使うことで、睡眠へと誘導します。

それらの方法のメリットとリスク

 基本的には、不眠の「原因」の近いところ(緑の矢印)で作用するように薬を使うことが、一番理にかなっています。そもそもの原因が無くなれば、症状も解消されることになる訳ですから。

 それに、就床前ではない時間帯に薬を服用する方が、当然、薬に対する精神的依存も少なくなるはずです。つまり、薬の服用を睡眠との関係で意識することは少ないので、食後(日中)に服用する薬をやめることに対する抵抗感は、寝る前に服用する薬に比べ、より少ないからです。

 ただ、不眠の原因に対処するだけで、十分に不眠が解消されない場合もある訳で、その場合は、青の矢印赤の矢印のところで対処するしかない訳です。ただ、それは、薬への精神的依存を引き起こす可能性があるので、不眠が解消されたら、なるべく早く、減量や中止をすべきです。

 

「ことばのクスリ-薬に代わるこころのケア-」:志村宗生;東京図書出版、2023

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