われわれが飲むお酒には、何パーセントかのアルコールが含まれています。正式には、エチルアルコールと呼ばれるものです。
エチルアルコールには、中枢抑制作用といった薬理作用があります。
その作用とは、脳の働きを抑えるというもので、たとえば、脳の運動機能が抑えられると、「千鳥足」と呼ばれる歩行障害が生じます。大脳の機能が抑えられると、まずは、感情や理性の「抑制」が外れ、人によっては陽気になったり、泣きだしたり、おしゃべりになったりする訳です。さらに中枢抑制作用が進むと、眠気に襲われ、その場で寝てしまいます。最終的には、生命を維持するための働きもまでが抑制される、いわゆる、急性アルコール状態となり、そうなれば、命の危険を伴うことになります。
少量のアルコールを飲むことで、大脳の働きが抑えられた結果、不安感や緊張感が消えます。仕事などで張り詰めていた心と体がリラックスし、「楽になった」と感じられる訳です。お酒に弱い人では、多少眠気も起きます。
アルコールには、そのような効果があるので、昔から、少量のアルコールは睡眠を助ける飲みものとされてきました。欧米では、「ナイトキャップ」と呼ばれています。
確かに、アルコールの薬理作用を利用して眠りに就くことは可能ではありますが、残念ながら、睡眠にとってアルコールは、あまりいい「薬」とは言えないのです。
第一に、アルコールを飲むと、寝ついた直後、とても深い眠りが訪れるため、逆に、短時間で目覚めてしまいがちです。寝つきはいいけれど、睡眠時間が短くなる可能性があり、結果的には、いい眠りとはならないのです。
第二に、アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドは、時に頭痛や動悸を引き起こすため、また、アセトアルデヒド自体に覚醒作用があるため、長く、よい眠りを妨げてしまいます。
第三に、アルコールのため、深い眠りになった時、気道が狭くなり、その場合、いびきをかいたり、一時的に無呼吸となることがあります。それらも、いい眠りの妨げになるのです。
もっとも大きなリスクは、次に述べるアルコール依存症の問題です。
アルコールなどの中枢抑制作用のある物質には、「耐性」といった現象が起こります。
どんな現象かというと、お酒を飲み続けていくと、最初は、すぐに酔っぱらっていたものが、次第に、同じ量をのんでも、平気になっていくという現象です。つまり、飲み続けていくと、お酒に対して強くなっていくのです。
このため、寝つくために必要なお酒の量が、次第に、増えていくことになります。
寝つくための酒量が増えることで、肝臓などの臓器に障害が起こったり、二日酔いや朝起きられないことで、仕事や家事に支障が出たりする状態となる可能性があります。そこで、お酒で寝ることは不適切だということに気づけばいいのですが、人によって、お酒による害を否認する人たちもいて、その人たちはアルコール依存症の予備軍となってしまうのです。

