対症療法としてのこころの薬の使い方

メンタル・ヘルス

なぜこころの薬を使うのか

 薬の弊害についてこれまで述べてきましたが、実は、賢く使えば、薬はみんなのメンタル・ヘルスにとても役立つものです。

 それを使用する理由は、薬でとりあえず症状が無くなりこころも体も楽になることが患者にとって必要だからです。

 というのも、精神症状というものは、人のこころやからだを「麻痺」させるからです。たとえば、不安・恐怖症状の場合、それにとらわれることで、理性的に考えたり、ふるまったりすることができなくなります。たとえば、うつ症状の場合は、集中することや積極的に行動することができなくなります。眠れないと、頭が働かなくなります。

 精神症状のため、身の回りのことをしたり、家事をしたり、外で働いたりすることが、つらくなったり、できなくなったりするなど、自らの日常生活に重大な支障が生じます。そうなれば、二次的に、同居する家族の負担が増えたり、まわりの人たちとの交流も途絶えたりといったことも起こります。それらのことは、ただでさえ「症状」で苦しむ患者にとって、さらなる負担となるはずです。

 また、症状があること、つまり、恐怖や不安があったり、からだやこころが正常に働かないと、「症状がなぜ起こったのか」についてよく考えたり理解したり、そのことに適切に対処したりすることができなくなります。一言で言うと、「精神症状は、症状の改善を妨げる」のです。

こころの薬は漫然とは使わない

 このように「症状」自体で苦しみ、「症状」がもたらした結果で苦しみ、「症状」により「症状」の解決を妨げられている患者にとって、とりあえず、症状を軽くしたり、消失させたりすることは、患者にとって大きな利益となるはずです。

 ただ、症状が消失した後、ただ「漫然」と薬をのみ続けることは、賢いやり方ではなく、患者の利益にはならないと考えます。

 症状が消え、正常に考え行動することができるようになった時、次には、どうすれば薬を減らしたりやめたりすることができるかについて考えることが必要です。そのためには、まずは、症状の起こった「訳(理由)」について、よく考え、理解することです。その上で、症状を消失したり、二度と起こらなくなるようになるには、どう考えるべきか何をすべきかを考え、それを実行すべきだと考えます。このことは、後に、「精神療法のはなし」の中で述べる予定でいます。

 そうすることが、こころの病に対する本来の治療であり、解決のための根本的なやり方なのです。つまりは、症状が消失して初めて治療が始まる」訳です。

「ことばのクスリ-薬に代わるこころのケア-」:志村宗生;東京図書出版、2023

 

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